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人間とは?自由とは?本質抉りだすシリーズ最終章『舞台 PSYCHO-PASS サイコパス Virtue and Vice 3』開幕

2024.3.17

2012年のアニメ放送開始から12年、いまなおその唯一無二の世界観は揺らぐことなく、多くのファンを魅了している「PSYCHO-PASS サイコパス」。2023年にはシリーズ10周年プロジェクトが始動するなか、スピンオフストーリーを描く舞台シリーズ第3弾にして最終章となる『舞台 PSYCHO-PASS サイコパス Virtue and Vice 3』が3月15日(金)に開幕した。
 

その人をその人たらしめるものとは?自我の所在問うシリーズ最終章

シリーズ1作目の後日譚を描く本作。主人公・九泉晴人(演:鈴木拡樹)はシビュラシステムによって人工的に作られた“人工監視官”であることがすでに1作目で提示されている。自分が信じてきた自分の人生が偽りだと知った九泉は、果たしてどんな人生を辿るのだろうか。

本作は「PSYCHO-PASS サイコパス」と世界観を共有してはいるが、彼らは原作アニメには登場しない。つまり彼らの物語には原作がないのだ。しかも“人工監視官”という前例のない九泉の未来は、想像することすら難しい。初日の公演を前にした客席は、そんな想像のつかない結末に向けて、得も言われぬ緊張感に包まれていた。

物語は九泉が再び公安局刑事課三係の監視官に着任するところから緩やかに動き出す。暗鬱とした表情で、以前の精悍な顔つきとはまるで違う様子の九泉は、心理カウンセラー・林崎仁哉(演:多和田任益)の“調整”によって再び監視官然とした表情を取り戻す。

彼が復帰した先は、再編された公安局刑事課三係。ザ・エリートで品行方正な非の打ち所がない監視官・海堂自我(演:和田雅成)が4人の執行官を率いている雰囲気のよいチームだ。賭けが好きだと語る鹿取尊(演:田村心)、ロック好きの水落涼介(演:菊池修司)、元軍人の馬場吾郎(演:中村祐志)、映画制作に憧れを抱く青蓮院洸也(演:春本ヒロ)の4人。海堂演じる和田いわく「心から愛せる執行官が集まった」とのこと。

今作も、少ないシーンでそれぞれの人間性を掘り下げる脚本・演出は健在。序盤で描かれる些細な日常シーンから、彼らの人となりや関係性が感じ取れるため、物語が核心に迫る頃には彼らの心情にしっかりと寄り添えるように作り込まれている。1作目とも2作目とも違う新たな三係に、きっとすぐに愛着が湧くことだろう。

新体制となった三係にゆっくりする暇はない。シビュラシステム公認芸術家である歌手・イリュージオ(演:山本咲希)の歌声に警鐘を鳴らした、ある認知言語学者の殺害事件が発生。三係はこの事件の捜査の過程で、ベンザイサウンドインダストリーズの聴覚音響研究員・仁木蔵藻負(演:高橋駿一)に接触。イリュージオという歌姫の背後に、次第に大きな闇が浮かび上がっていくこととなる。

事件と並行して、“九泉晴人は何者なのか”というもう1つの軸が描かれていくのが本作の見どころだ。本作を「苦悩を描く作品」と語る鈴木が生み出した、丁寧に感情を重ねた息苦しいまでの芝居を通して、観客は人間とは何かというあまりに壮大な疑問に行き着くことになるだろう。その人をその人たらしめるものは、記憶か意思か、それとも強く思い描く夢か。

九泉晴人が九泉晴人である理由を考えると同時に、その疑問は観劇後にふとあなた自身にも“あなたがあなたである理由”を問うてくるかもしれない。劇場での約1時間50分の体験で終わらず、観劇後までもその意識を支配する。これぞ『舞台 PSYCHO-PASS サイコパス Virtue and Vice』シリーズの醍醐味といえるだろう。

劇場も仕掛けの一部として楽しんで

近未来的な世界観でありながらもリアルをはらみ、ユートピアでありディストピアでもある本作。東京公演は、まさにこの近未来的を体現する東急歌舞伎町タワー内、THEATER MILANO-Zaで上演される。新宿の雑踏と喧騒を抜けて、公安局ビルを彷彿とさせる最新鋭の建物に足を踏み入れる感覚は、シビュラシステムによって整備された“正しい社会”に入っていく感覚に近しいものがあるのではないだろうか。

演出を手掛けた元吉庸泰は、初日前に実施された囲み会見で「この街自体を楽しんでいただける演劇になれば」と語っていた。本シリーズですっかりおなじみとなった、ステージ上カメラの映像を紗幕に映し出すリアルタイム演出と併せて、THEATER MILANO-Zaという空間だからこそ味わえる感覚を受け取ってみてはどうだろうか。

またTHEATER MILANO-Za内の“Za Bar”では上演期間中限定のオリジナルドリンクが提供されている。コーラゼリーがアクセントとなっている爽やかな「エメラルドレモネード」、ブルーベリーの甘酸っぱさとマンゴーの甘味がクセになる「トロピカルマンゴー」、重いテーマの作品を観る前のカロリー補給にぴったりな「チョコミントフラッペ」の3種で、観劇体験に“おいしい”をプラスしてみるのもおすすめ。

劇場が一体となって創出する“PPVV3”カラーは、世界観への没入をより色濃いものにしてくれる。初日はグッズ購入列も途絶えることなく、ファンの熱気がロビーを覆った。

開演数分前になると、九泉はふらりとステージ上に現れる。現実と物語が地続きだと感じさせてくれる粋な演出ではあるのだが、観劇の際は、ぜひ時間に余裕を持って少しはやめに着席しておくことをおすすめしたい。

“正義”の行き着く先を見届けろ

1作目では明かされなかった九泉の過去、嘉納火炉(演:和田琢磨(映像出演))が遺したもの、新監視官・海堂の存在、1作目では蘭具雪也、2作目では光宗悟として出演していた多和田が林崎を演じる意図…。

考えれば考えるほど底なしの思考の沼に沈んでいくような、相変わらず考察しがいのある作品にしあがっていた。総合演出を手掛ける本広克行いわく本作は「難解さを楽しむ」作品とのこと。

初日の幕が降り、満員の劇場にはスタンディングオベーションと4度のカーテンコール、そして万雷の拍手が鳴り響いた。観客にこれほどまでの熱を届けた、“正義”が行き着くひとつの答えを、THEATER MILANO-Zaで見届けてみてほしい。

『舞台 PSYCHO-PASS サイコパス Virtue and Vice 3』

2024年3月15日(金)~3月24日(日)
お問合せ:公演事務局 0570-200-114(11:00~18:00/日祝休業)

公演詳細はこちら

文・写真:双海しお (タワー外観写真は除く)

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