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歌舞伎町が夢見た「歌舞伎」がやってくる!|中村七之助インタビュー

2024.4.28

昨年4月に開業した東急歌舞伎町タワー内の劇場「THEATER MILANO-Za」。その一周年を飾るべく、満を持して「歌舞伎町大歌舞伎」が開幕する。趣向の違う二つの舞踊に落語をベースとした新作歌舞伎と、肩の力を抜いて楽しめる演目揃い! 新作で “貧乏神おびん”に扮する中村七之助に、見どころを聞く。

中村七之助
歌舞伎俳優
1986年9月、歌舞伎座『檻』の祭りの子勘吉で初お目見得。87年1月、歌舞伎座『門出二人桃太郎』の弟の桃太郎で二代目中村七之助を名乗り初舞台。
以後、舞台出演のみならずさまざまな所でも活躍。
2003年にはハリウッド映画「ラストサムライ」に明治天皇役で出演。


なぜホスト姿で(笑)

― 本日は、『歌舞伎町大歌舞伎』の宣伝ビジュアル撮影にお邪魔して取材しています。見たことのない七之助さんの“ホスト姿”、歌舞伎ファンの皆さんが大層驚かれるかと……。
「中村七之助はついにおかしくなっちゃったのかな?」と、びっくりさせてしまいますよね(笑)。

― いえいえ、お似合いです(笑)。
「なぜこんなカッコウ!?」と理由が気になった方は、ぜひ劇場にご来場いただき、公演パンフレットをご確認ください。

― THEATER MILANO-Zaでの歌舞伎公演、いよいよ初日が迫ってきました。先頃、「新宿歌舞伎町大歌舞伎祭(4/28(日)・29(月・祝)」に人力車での「大お練り(4/28(日)のみ)」開催も発表され、お祭りムード満載ですね。
都会のど真ん中、新宿歌舞伎町を歩く皆様のご興味をひけるかは未知数ですが、お練りと遭遇したことをきっかけに足を運んでくださる方がいたらありがたいです。歌舞伎町はそもそも、空襲被害を受けた後の戦災復興事業として、映画館や劇場といった娯楽施設をつくった街なんだとか。歌舞伎の劇場誘致を目指して「歌舞伎町」と名付けられたと伺い、とても驚きました。

それぞれの作品を気軽に楽しんでほしい

― かつて街が夢見ていた歌舞伎公演が実現するわけですよね……! 舞踊は勇壮な荒事と軽快な連舞の『正札附根元草摺(しょうふだつきこんげんくさずり、通称・草摺引)』と、軽妙洒脱な『流星(りゅうせい)』、違う味わいの作品が二演目並びます。
『草摺引』には勇ましい隈取りをした曽我五郎時致というキャラクターが出てきますし、力強い見得なども含め、多くの方がイメージする“歌舞伎”の世界が広がる舞踊です。『流星』は牽牛と織女の七夕の物語を背景にしつつ、雷夫婦の喧嘩をコミカルに見せていく踊り。いずれも前情報なしで気軽にご覧いただけると思います。『草摺引』は長唄、『流星』は清元の舞踊劇ですから、実は贅沢なことなんです。一つの公演の中で二つのバンドを呼ぶみたいなことですから。

― なるほど、明るく華やかな長唄、情緒ある清元、ジャンル、曲調の違いも楽しんでいただきたいですね。続いて上演されるのは『福叶神恋噺(ふくかなうかみのこいばな)』。この公演のために仕立てる新作歌舞伎です。
落語の「貧乏神」をベースとした新作を考えています。働かないで寝てばかりの男の元に貧乏神が現れ、「お願いだから真面目に働いてくれ。貧乏神は金のある奴からその栄養分を吸って貧乏にするのに、ちっとも働かないのは困る」と催促する。けれども、男は根っからの怠け者で……という噺です。

― 貧乏神おびんを七之助さん、怠け者の大工辰五郎を中村虎之介さんが演じます。原作では貧乏神は男ですが、今回は「おびん」という女性の設定になります。
芝居らしいドラマを加え、物語の膨らみ、人物の心の機微みたいなものが出せないだろうか?と試行錯誤しています。辰五郎は腕のいい職人だけど、怠惰で全く労働意欲がないんですよ(笑)。それを見かねて“おびんちゃん”があれこれ世話をし始めるけれど、ますます働かなくなってしまう。「私がここにいては、この人がダメになっちゃう」と身を引くんですね。そこに兄(中村勘九郎)が演じる貧乏神すかんぴんも絡んで……という流れになりそうです。

― 原作の落語でも、業を煮やした貧乏神が内職を始めたりと実にいじらしいですが、歌舞伎になると切なさがアップしそうです(笑)。虎之介さんとのご共演は、昨年の『天守物語』が印象的でした。気高い富姫と凛々しい図書之助、とってもステキでしたね。
幻想的な『天守物語』とは、かなり違う世界観になりそうです(笑)。稽古場で生まれる瞬間をきちんと捉えて、二人でしかできない掛け合い、雰囲気を探っていければと思っています。虎之介くんは新しい役を演じられる度に可能性の花が開いていますので、僕も負けないように一生懸命やりたいなと思っています。

落語原作の歌舞伎。現代と地続きな、庶民の物語。

― 『福叶神恋噺』の脚本を手がけるのは、落語作家として知られる小佐田定雄さん。昭和の爆笑王・桂枝雀さんにも数々の作品を提供されていたことでも有名です。中村屋さんご兄弟とのお付き合いは、吉原一の花魁と堅物な田舎侍の物語『廓噺山名屋浦里(さとのうわさやまなやうらざと)』、男と女の騙し合いが繰り広げられる『心中月夜星野屋(しんじゅうつきよのほしのや)』に続いて3作目。落語原作の新作は、古典の中に入っても違和感なく、笑いもたっぷり。毎回楽しみです。
『廓噺山名屋浦里』は、笑福亭鶴瓶さんが高座に掛けていらっしゃるのを兄が聴き、「これを歌舞伎にしたい」と思ったことがきっかけで生まれた新作でした。そもそも鶴瓶さんが落語にされたのも、タモリさんがNHKの「ブラタモリ」で吉原を訪れた際にこの噺の原型となるエピソードを知り、鶴瓶さんに「落語にしてよ」と頼んだのが最初と伺っています。いろいろな偶然が重なって生まれたお芝居なんですよね。千穐楽は鳴り止まないスタンディングのカーテンコールとなり、鶴瓶さんとタモリさんにも舞台へ上がっていただいて……と、素晴らしい思い出になりました。小佐田先生とはそこからのお付き合い。ステキなご縁をいただきました。

― 田舎から出てきて苦労してきた花魁の物語は、都会で働く女の子たちへのエールのようにも感じられました。古典落語の「星野屋」をもとにした『心中月夜星野屋』は上演を繰り返す人気作ですし、庶民の物語である落語原作は、その温かさと軽やかさ、普遍性も魅力です。
登場人物たちの心の動きが、現代と地続きになるんですよね。動画配信サービスをはじめ今は家から出なくても楽しめる方法がいっぱいあります。そんな時代にお客様は、高いお金を払ってわざわざ足を運んでくださるわけですから、僕らはいろいろな趣向を凝らさないといけない。その点、新作歌舞伎は現代語なので、言葉の壁がないのが大きなポイントです。もちろん、昔からの歌舞伎ファンの方々にも、新しい物語世界を楽しんでいただけますし。『福叶神恋噺』は長屋を舞台にした、可笑しみと情が溢れた作品になりそうですし、肩の力を抜いて観ていただける作品が揃いました。今年の初夏は、“歌舞伎町での歌舞伎”にぜひご来場ください。


▼MASH UP! KABUKICHO では中村勘九郎さんのインタビューを公開中!
今を生きる人たちが作る、今ならではの歌舞伎を。中村勘九郎インタビュー

『歌舞伎町大歌伎』

2024年5月3日(金・祝)~5月26日(日)
お問合せ:Bunkamura 03-3477-3244(10:00~18:00)

公演詳細はこちら

 

スタイリスト:中西ナオ
ヘアメイク:林 摩規子
ジャケット(93,500yen)、パンツ(46,200yen)/ともにGalaabenD(3RD[i]VISIONPR  tel.03-6427-9087) バングル(4,950yen)、リング(3,850yen)/ともにLHME(Sian PR  tel.03-6662-5525) イヤーカフ(29,700yen)/PLUIE(PLUIE Tokyo  tel.03-6450-5777)(すべて税込)


文:川添史子
写真:鈴木 渉

 

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