NEWSお知らせ・トピックス

松尾スズキの初期の代表作『ふくすけ』が、ついに物語の舞台の地・歌舞伎町で開幕!!

2024.7.12

松尾スズキの初期の代表作『ふくすけ』が、ついに物語の舞台の地・歌舞伎町で開幕!!

松尾スズキが作・演出を手がけた『ふくすけ2024-歌舞伎町黙示録-』が2024年7月9日(火)、新宿・THEATER MILANO-Zaで初日を迎えた。本作は1991年に悪人会議プロデュースとして初演され、98年に「日本総合悲劇協会」の第2回公演として再演されたのち、2012年にBunkamuraシアターコクーンで再々演された松尾の代表作の一つ。歌舞伎町を舞台にしたこの作品を、その同じ地のど真ん中で初めて上演されることに、多くの演劇ファンが胸を踊らせたことだろう。

1991年といえば、日本はバブル景気の真っ只中だ。多くの人々が浮かれ、同時に、80年代の空虚感が面影を残す時代に、この戯曲は生み落とされた。歌舞伎町は2000年代に行われた「浄化作戦」によって街のイメージが刷新されたが、ネオンが瞬く光景の下には、今なお人間の業が渦巻いているような印象をもたらしている。それだけに、暴走する人間の欲望を多面的に描いたこの『ふくすけ』は、33年前に書かれたものとは思えないほどの色褪せない密度で、観る者に混沌さと心地良い刺激を与えていった。

今回の12年ぶりの上演に際し、松尾は台本を一部改定している。その大きなポイントのひとつに、主人公をタイトルロールのフクスケから、彼が入院していた病院の警備員コオロギと、その妻であるサカエへと変更した点がある。演じたのは阿部サダヲ(コオロギ)と黒木 華(サカエ)。かつて松尾が演じたこのコオロギ役を、阿部は感情溢れるパワフルさで表現。本能のままに突発的な行動をしているように見え、ときおり洞察力の鋭さも覗かせる新生コオロギは、知的な佇まいを感じさせる阿部だからこそ生み出せた人物だと言える。対して、黒木はコオロギから暴力を受けながらも、献身的に夫を支える盲目の妻を好演。健気さと儚さを併せ持つ女性像を作り上げ、それゆえ、垣間見せる鋭利で強さのある台詞からは、背筋が寒くなるほどの怖さも感じられた。


 

副題に新たに付された〈黙示録〉の意味とは

物語は、病院に保護されていたフクスケをコオロギとサカエが連れ出すところから大きく動き始める。製薬会社の御曹司ミスミミツヒコ(松尾)による薬剤被害で身体に障がいを持って生まれたフクスケ。この事件の背景に世間は同情の目を向けるも、コオロギはフクスケが狡猾な人間だと見抜き、彼を使って一儲けしようと企む。圧巻だったのは、腹黒さを内包したフクスケ役の岸井ゆきのの存在だ。中性的な雰囲気を醸し出しつつ、心根を見せない言動で物語を大きく動かす彼女の一挙手一投足に、観客は惹きつけられていく。

また、時を同じくして、歌舞伎町を訪れる一人の男が。エスダヒデイチ(荒川良々)と名乗るこの男は、14年前に失踪した妻エスダマス(秋山菜津子)の手がかりを見つけにこの街にやってきたのだ。吃音が原因で学生時代からいじめにあうなど、いくつもの不幸を重ねてきた彼にとって、マスは生き甲斐でもある。妻を語るときの荒川の芝居には実直さとマスへの熱情が強く感じられ、言葉の一つひとつが心に染みてくる。そんなヒデイチに寄り添い、妻探しを協力するフタバ役には松本穂香。ホテトル嬢であるフタバは“愛を売る”ことに誇りを持ちながらも、他人から与えられる愛に飢えており、ヒデイチの純愛に惹かれていく。新鮮だったのは松本のギャル風の出で立ちと言葉遣いで、彼女が持つパブリックイメージを大きく覆していった。また、新境地とも言える姿を見せたのは荒川も同じで、悲哀さを漂わせながら届かぬ“愛”を求める2人の物語は、混沌とした舞台の中に刹那的な優しい時間をもたらしているかのようだった。

そして、コオロギとサカエ、ヒデイチとマスという2組の夫婦の物語が軸として展開していく中、もう一つの大きな“渦”として作品に深遠さを与えていったのが、マスとコズマ三姉妹の存在だ。精神のバランスを崩し、躁と鬱を繰り返すマスを巧みに演じ上げた秋山は、凛とした佇まいで、登場するたびに舞台上に叙情的な空気を生み出していく。このマスもまた歌舞伎町に流れ着いた一人で、風俗業界で暗躍するコズマエツ(猫背 椿)、ミツ(宍戸美和公)、ヒロミ(伊勢志摩)とともに、やがて歌舞伎町を牛耳る一大組織を築き上げていくのだった。しかし、そんな彼女たちを裏で嗅ぎ回る男の影が。ヒデイチから依頼を受けて、マスの行方を探る自称ルポライターのタムラタモツ。ミスミのもとで下働きをしていた過去を持つこのタムラを演じた皆川猿特は、豪快さと胡乱さのある怪演を見せながら、いくつもの事件に隠された闇を暴いていく。

一見するとバラバラに映る3つの物語。しかしそれらは細い糸でつながっており、本能のまま突き進む登場人物たちの各々のエネルギーに引き寄せられるように、やがて大きなうねりとなって一つの物語へと収束していく。また、暴走とも言える彼らの姿を煽るように響く三味線(演奏:山中信人)の音色も存在感を放ち、観客の情感を刺激しながら、物語の疾走感を助長していく。そして訪れる思いも寄らない結末――。今回、新たにサブタイトルとして付けられた〈黙示録〉の言葉にふさわしいラストをぜひ劇場で体感していただきたい。
残念ながら前売りはすでに完売。しかし当日券は若干枚数用意しているとのことなので、➤公式サイトのチェックを。四半世紀以上に渡って語り継がれ、演劇史の偉大な1ページを刻みつつ、新たに生まれ変わったこの『ふくすけ2024-歌舞伎町黙示録-』をお見逃しなく。


 

客席の外でも『ふくすけ2024-歌舞伎町黙示録-』を楽しんで

作中に登場する印象的な〈歓びの唄〉〈えびす顔〉〈なんだわいな〉〈不幸幸福大反転〉というフレーズ。これらをそのままメニュー名にしたコラボレーションドリンクも、劇場内のバーカウンター「Za Bar」で発売中。ボトルドリンクは、すっきりした甘さが楽しめる巨峰ゼリー入りの「歓びの唄」、ピーチエードに黄桃と白桃を加えた“桃づくし”な「えびす顔」、フルーツレモネードをベースにパインやキウイ、チェリーなどが入った見た目も彩り豊な「なんだわいな」の3種類。これらにはTHEATER MILANO-Zaオリジナルボトルホルダーが付き、会場内への持ち込みも可能となっている。また、ヨーグルトにブルーベリーを組み合わせた甘酸っぱさが魅力的なフラッペの「不幸幸福大反転」は夏にぴったりなアイテムに。そのほか公演プログラムや公演オリジナルTシャツ、松尾スズキが描いた本作の絵画展示に戯曲本も販売しているので、観劇と合わせて、より『ふくすけ2024-歌舞伎町黙示録-』の世界を楽しんでみてはいかがだろう。

COCOON PRODUCTION 2024
ふくすけ2024-歌舞伎町黙示録-

2024年7月9日(火)~8月4日(日)
お問合せ:Bunkamura 03-3477-3244<10:00~18:00>

公演詳細はこちら

舞台写真:細野晋司
文:倉田モトキ 

chevron_left 前に戻る