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まさにダークファンタジー!実力派キャストが魅せる現代の御伽噺。|東洋空想世界『blue egoist』開幕レポート
2024.11.22
※本編の内容に言及しています。
東洋空想世界『blue egoist』は、これまで物語の内容を一切公開せずに、謎のままにカウントダウンが進んでいたが、遂にそのベールを脱いだ。新宿歌舞伎町のど真ん中に聳える東急歌舞伎町タワー。独特の世界観を感じながらエスカレーターを登り劇場に足を踏み入れると、外界同様の混沌とした「音」が立ち込める空間が広がっていた。幕開きは圧巻のライブパフォーマンス。ひとり、またひとりと、シルエットが浮かび上がる。ピラミッド状に積み上げたLEDディスプレイの閃光が、待ち侘びた観客のボルテージを高めていく。6人のクールでスタイリッシュなダンスパフォーマンスから目が離せない興奮のステージ。舞台を面で見せる舞台美術は、聳え立つビル群にも見えてくるような迫力だ。
傷を癒すように寄り添う6人、それぞれの物語
曲間のMCで、彼らは「ブルー・エゴイスト」というグループで、これが初ライブであることがわかる。そのライブパフォーマンスに魅せられていると、一転して物語が動き出した。憂いを帯びて顔を歪める七海ひろきが演じるのは「吸血鬼」のようだ。その過去の場面が浮かび上がると、吸血鬼の家族が現れた。まだ子供だった彼は、血がなければ生きていけない存在であることを自覚させられて愕然とする。美しいものを求めながら、己の醜さとの間で苛み苦しむ。彼の慟哭が悲しく響き渡った。6人それぞれの過去の場面を表現するのに特徴的なのはパペットを用いていること。「現在」の自分が「過去」の自分を操り見せていく。
次に登場したのは阿部顕嵐、ギターを抱え「狼」の着ぐるみ姿で「びっくりしちゃいますよねぇ……」と観客に語り始めた。その語り口は明るく自虐的な香りがする。弾き語りで彼に起きた出来事をぽつりぽつりと歌い始めた。自分が狼であると認識させられたある夜の出来事。自分で制御できない恐怖と快感と孤独。悲しさを抱えた重い足取りで歩を進める。
続いて、軽やかな音楽と共に、後藤大が演じる「狐」が登場し、大きな白い紙に筆で絵を描き始めた。その絵を破って登場したのは、狐の家族たち。ラップに乗せて、彼らの生活が軽快に語られる。その様子はキュートな可愛らしさも溢れているが、ポップな語り口のその真実には悲劇が潜む。
そこに現れたのは、福澤侑が演じるリヤカーを引いた「カラス」。そのリヤカーには、立石俊樹が演じる「鬼」が乗っている。人間の住む街で生まれたカラスは、自分の過去を明かす。小さな可愛い鳥が、いかにしてカラスとなってしまったのか、人間に紛れて生きてきたか。そこには諦めのような感情が見え隠れしているようにも見える。5人は行き場をなくした者たちが集まる森へと向かった。
5人がたどり着いた森は、枯れた枝だらけだった。嘆きの歌声と共に登場したのは、高橋怜也が演じる「蜘蛛」。人間が好きで近づいているのに、何もしていないのに、その姿から追い払われるのだと嘆く。毒々しい見た目からは意外に感じるようないじけた様子に、「顔を作りましょうか」と狐は提案する。吸血鬼は美しい洋服を作ってあげた。美しい顔と洋服を手にいれ、自信を得た蜘蛛。カラスは顔を、狼男は洋服を新しくして、自信を得た彼ら。新しい姿で、過去の姿であるパペットを操りながら歌う様子は、自身のコンプレックスを打ち払い、強くなったように見える。未だ何も語らない鬼もカラスに促され、美しい姿になった。自信を得て、人間のようにやってみようと希望を手にした6人は、共に歩き始めた。
ギターを弾きながら歌を作っている狼男と、手鏡で新しい自分の顔を見つめる鬼。狼男は自分の心の内を明かしながら、遠慮がちに「あなたの話を聞いてもいいですか」と呼びかけた。鬼がそっと歌い始めたその物語は、やはり悲しい過去だった…。
ファンタジーから現代社会の孤独や闇へ。
美しくなった彼らの姿を紹介する動画が、人間たちの間で話題になり、人気が出てきていることを知った6人。それぞれの想いや目的を胸に、人前に出て行こうと決意した彼らは、声を重ね、未来に希望を抱いて、輝きを増し、冒頭のライブへと繋がっていく。しかし、そのライブの絶頂で起きたアクシデントをきっかけに、彼らの本来の姿があらわになってしまう。その姿を目にした人間たちは、異端の者たちにどんな行動を取るのか。そして、彼らにはどんな未来が待っているのか。ぜひ劇場で確かめてほしい。
現代社会の孤独や闇、その中においての人との繋がりなどを、御伽噺で見せながら、鋭利に描き出している。それぞれの外見に内包された心の内は、他者にはわからないことがほとんどだろう。美しき彼らだからこその、深い闇も垣間見える。劇場からの帰路、新宿の街並みの雑踏に紛れながら、ふと立ち並ぶビルを見上げた。今ここに彼らが現れたら、その輝きに魅せられない人はいないだろう。きっと街は熱狂の渦になる。そこに集う一人ひとりの心の内は、さまざまに揺れて、今を懸命に生きている。
客席の外でも劇世界を楽しんで
劇場内のバーカウンターでは、『blue egoist』とTHEATER MILANO-Zaのコラボドリンクが販売されている。台本を熟読し作られた、6人のイメージが表現されたドリンクたち。色を選べる劇場オリジナルのボトルカバーも付いてくる。6種それぞれに違う美味しさがあり、6人同様に個性豊かなのだが、筆者のおすすめは一番左と左から四番目。左のドリンクは3色の層のグラデーションも、混ぜた時の深い紺碧色も美しく、飲みごこちは爽やかで美味しい。もうひとつはクリアな3色のグラデーションと果実とゼリーのミルフィーユ。口に広がるシュワっとした炭酸、瑞々しいブルーベリーとピーチゼリーの食感も楽しく、甘すぎないのもいい。登場人物たちの背景を思い浮かべながら、ここでしか味わえないドリンクも楽しんでみてほしい。
文・写真:岩村美佳
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