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盤石のキャスト&スタッフで創り出す、新しい安倍晴明の物語。|市川團十郎インタビュー

2025.2.14

市川團十郎演じる安倍晴明を主人公とした、新しいエンターテイメントの幕が開く。物語の舞台は平安時代。「天下が乱れる」というお告げを受けた陰陽師・晴明が、平安京の四方を守護する朱雀・青龍・白虎・玄武の四神に都の結界を守るよう命じるが、朱雀が「人間を一掃すべきだ」と裏切り……都に侵入する魑魅魍魎や第六天魔王との戦い、精霊や神々との対話。壮大なスケールの世界が立ち上がる。

十三代目 市川團十郎
1977年十二代目市川團十郎の長男として東京に生まれる。1983年5月に初御目見得。1985年に七代目市川新之助を名乗り初舞台。2004年に十一代目市川海老蔵を襲名。2013年には、自主公演「ABKAI」を立ち上げ、2015 年から始まった「六本木歌舞伎」などで次々と新作を創り上げる。海外公演は、2004 年に十一代目海老蔵襲名披露をパリ・国立シャイヨー宮劇場をはじめ、ロンドン、アムステルダム、パリ、モナコ、ローマ、シンガポール、UAE、ニューヨークで行い、いずれの舞台も大きな話題となっている。 2015年より東京2020 組織委員会文化・教育委員会委員を務め、2021年東京 2020オリンピック競技大会開会式へ出演。2022年に十三代目市川團十郎白猿を襲名。2001年芸術選奨文部科学大臣新人賞、2007 年フランス芸術文化勲章シュヴァリエ。

 

「役者泣かせ」で、やりがいのある作品 

脚本:今井豊茂
演出:広井王子
楽曲:SUGIZO
邦楽作曲:今藤長龍郎
神楽振付:ケント・モリ
歌舞伎音楽:田中傳次郎

 

――脚本のファーストインプレッションを教えていただけますか?

「私の力で、必ずこの世を、人間を守ってみせる」と力強く言い放つような晴明は、自分こそは人間の力を超越したところにいる――という自負のもと生きている人物です。けれどもさまざまな経験を経て人間であることを思い知り、そして自分を支配している精霊、さらに神々ですら、森羅万象、宇宙を形づくる要素の一つなのではないかと思い至る。晴明の目線で描かれた物語だと感じました。

 

――脚本は、長年歌舞伎の脚本、補綴を手掛けられる今井豊茂さん。市川海老蔵時代から長いお付き合いですね。台本を拝見すると、さまざまなことに葛藤する晴明自身の、心の中をのぞいていくような印象もあります。

そう、「光と闇」という二つの世界が提示され、晴明がだんだんと光の方へ到達していくようなイメージですよね。どこか幻想的というか、現実世界ではないような。と同時に、現代の映し鏡でもあって。ある意味、抽象性が強く「役者泣かせ」の台本でもあります。

 

――役者泣かせ、ですか?

想像力を駆使し、咀嚼しながら、身体表現として演じなくてはいけませんからね。もちろんこれは、やりがいでもあります。「役者泣かせ」にもいろいろな種類があって、例えばギリシャ悲劇の『オイディプス』のように膨大な台詞がある芝居も、ある意味「役者泣かせ」の一つでしょう。でも古典作品は、きちんとやりきりさえすれば、到達すべきゴールがある程度は見えている。でも今回のような新作は、そうした向かうべきゴールが見えない中でのクリエイションになります。歌舞伎の場合は座頭(主役)が演出的な立場も兼ねますが、今回は広井王子さんが演出を手掛けられますし、いち役者として向き合いたいと考えています。世界的ミュージシャンの SUGIZOさん、ワールドワイドに活躍されるケント・モリさんが神楽振付で参加されるということで、この機会に「新しいことを学びたい」という気持ちもありますし。

 

 演奏者たちも芸術家。その技術や存在感にも注目を 

――邦楽作曲には、歌舞伎座など多数の舞台に出演しながら作曲活動も行う今藤長龍郎さん。歌舞伎音楽には、能楽・歌舞伎・現代劇を巧みに取り入れた舞台が話題を呼んだ『波濤 を越えて』も企画・プロデュースした田中傅次郎さん。琴、十七弦、尺八、和太鼓、三味線、竹笛、鼓や太鼓……生演奏での楽器による演奏が芝居を彩るのも今回の“聴きどころ”。歌舞伎では舞台上の演奏者を観ながらお芝居を見るのは普通のことですが、初心者の方は驚かれるかもしれません。

 

ミュージカルやオペラのように音楽がかなり重要とされるジャンルでさえも、演奏者はオーケストラピットの中で姿が見えませんからね。舞台における“音楽”というとBGMのように思う方も多いと思いますが、演奏者たちも芸術家です。その技術や存在感にもご注目ください。

 

――録音ではなく生演奏が聴ける贅沢な時間、演奏家の鮮やかな手さばきを見るのも、お客さまにとって楽しい経験となるはずです。今回は開演15分前から舞台上で、琴の演奏が始まるとか。

私の自主公演でも実施したことがあるのですが、お客さまに好評の趣向です。ぜひ少し早めに劇場においでください。

 

 嶋﨑斗亜さんは「とても可愛らしい方」

――キャストについても伺いたいです。朱雀を演じる嶋﨑斗亜さん(Lil かんさい)の印象、そして期待するところも教えてください。

お会いした時の印象は、「とても可愛らしい方」です。あの若さと軽快さと瞬発力を、そのまま役に活かしてくだされば、と思いますね。私たち歌舞伎の人間はどうしても、伝統的な手法でカッチリとした演技を重視してしまいます。今回はこういった新しい試みの作品ですから、ある部分では彼の軽やかさに合わせたいと考えています。また嶋﨑さんも、こちらから影響される部分もあるでしょう。役者同士の本能的な部分でディスカッションしながら、一つの作品をつくりあげられたらと思います。

 

――青龍役の市川右團次さん、多聞天と家臣保明の二役を演じる市川九團次さんら團十郎さんとのご共演も多いベテラン陣に加え、中村鷹之資さん(玄武役)、市川男寅さん(帝役)、大谷廣松さん(白虎役)という若手の皆様もご参加されます。若い方々への期待も教えてください。

市川九團次
大谷廣松
市川男寅
中村鷹之資
市川右團次

 

やはり歌舞伎は伝統文化という荷物を渡していく仕事ですから、いろいろな経験が舞台に生きていきます。皆さんそれぞれが個性と力を発揮くださることに期待しています。


――少し舞台の話題から離れるのですが……最近、團十郎さんが興味あることを教えてください。

カレーですかね。実は今朝も作ってきました(笑)。あと最近は生成AIに興味があります。(「中国版ChatGPT」と呼ばれ話題を呼んでいる)「ディープシーク」の動きも、大変興味深く見ていますし。

 

――なんと、カレーから生成AIまで幅広いアンテナですね! まさか歌舞伎俳優の方から「生成AI」なんて単語を聞くとは考えてもみませんでした……。

現代における“考え方のゲームチェンジャー”みたいな動きを、知っていくことが楽しいのだと思います。

 

――なるほど、やはり「團十郎」というお名前は、エネルギッシュな方が受け継いでいくのだなと再確認いたしました……。最後に、お客さまへのメッセージをお願いいたします。

THEATER MILANO-Zaが建つ場所である「歌舞伎町」という名前の由来は、歌舞伎の劇場を誘致する計画があったことにある、と伺いました。せっかくのご縁ですから、ぜひご近所の皆さまにも足をお運びいただければありがたいです。歌舞伎というとハードルの高さを感じる方も多く、まだ足を運んだことがない方が世の中にたくさんいらっしゃるんですね。せっかく初めてTHEATER MILANO-Zaに立つなら、こうした新しい切り口の作品で少しずつ場を耕して、新しい出会いを作るのが我々演者たちの役目でもあります。ぜひ気軽なお気持ちでいらしてください。

 

JAPAN THEATER『SEIMEI』
Supported by 飯田グループホールディングス

2025年3月1日(土)〜3月23日(日)
お問合せ:Zen-A(ゼンエイ)03-3538-2300(平日11:00~19:00)

公演詳細はこちら

 

文:川添史子
写真(市川團十郎):平安名栄一

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