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『キャッシュ・オン・デリバリー』演出の小貫流星が語る盟友・井口理と過ごしたあの頃のこと

2025.10.15

日本の音楽シーンのトップランナー、King Gnu。そのメインボーカル・井口理がメジャーデビュー後の初舞台・初主演作として選んだのは英国発のクラシックコメディ『キャッシュ・オン・デリバリー』! 演出を担う小貫流星に10年前に同作を上演したさいのエピソードや作品の魅力について語ってもらった。

小貫流星 おぬきりゅうせい

日本大学芸術学部演劇学科演技コース卒業。舞台『千と千尋の神隠し』、舞台『キングダム』、ミュージカル『ナイツ・テイル-騎士物語-』ARENA LIVE等で演出助手を務め、本作が演出家デビューとなる。

 

――今回の『キャッシュ・オン・デリバリー』上演の源流が、小貫さんと井口さんの学生時代にあると知って大変驚きました。

僕は日大芸術学部、井口さんは東京藝大で学んでいる学生で、そもそもの出会いは藝大のミュージカルサークルだったんです。そのサークルではおもにオリジナルミュージカルを上演しており、僕は演出を担当していました。一緒に舞台作品を作るなかで、違うタイプの演劇もやりたいね、と井口さんと話して団体を立ち上げ、そこで上演したのが『キャッシュ・オン・デリバリー』だったんです。 

――2016年、高円寺の明石スタジオですね。

当時は「ちゅーちゅーず」という名称でやっていました。これは、その団体での旗揚げ公演がアガサ・クリスティ原作の『マウストラップ』で、劇場をお借りするときに団体名が必要ということで、マウス=ねずみだから「ちゅーちゅーず」がいいんじゃない?とつけた名前です(笑)。その団体での第4回公演が 今回と同じ『キャッシュ・オン・デリバリー』でした。
 

 ふとした問いかけから動きだした“約束” 

 

――それが10年の時を経て小貫さんの演出、井口さんの主演で上演されるわけですが、今回の企画の成り立ちを教えてください。

井口さんと僕はお互いにそれぞれの現場で活動していて、すごく密に会っていたというわけではないのですが、あるとき一緒に食事をした席で、ふと「理(さとる)は舞台やらないの?」と彼に聞いてみたんです。そうしたら「機会があればやってみたいです」と返事が返ってきたので、プロデューサーに相談をして、そこからいろいろなことが具体的に動き出したという次第です。明石スタジオでの公演を井口さんの事務所の方がご覧になっていて「あのときのコメディがいいんじゃない?」と背中を押してくださったのも大きかったですね。
 

――上演が決定したときはどう思われました?

最初は「本当に僕でいいんですか?」と思いました。僕は今、東宝演劇部の所属なのですが、プロとしては初めての演出作品ですし、劇場も客席数が900のTHEATER MILANO-Zaに決まったと聞いて、ちょっと震えましたから(笑)。

 

 THEATER MILANO-Zaの空間をどう使うかも課題 

 

 

――東京公演がおこなわれるTHEATER MILANO-Zaの視察にいらした小貫さんと井口さんが舞台上から客席を見つめながら「明石スタジオからここまで来たか…」とつぶやいていらしたのを劇場担当者が聞いたそうです。

わあ、聞こえていたんですね(笑)!いや、本当にそう思いました。当時は100席くらいの小劇場で、最前列のお客さまには座布団を出して座っていただいたくらいなので、もう感慨深くって。『キャッシュ・オン・デリバリー』はシチュエーションコメディですから、あの広い劇場空間を演出としてどう埋めていくかも課題ですし、楽しみなところでもあります。歌舞伎も上演する劇場ということで、舞台上の声が客席に届きやすいともうかがっています。

――そして、今回の照明プランナーさんと舞台監督さんも日芸時代からお付き合いがある方たちなのですね。

小さな劇場で作品を作っていた当時「10年くらい経ったら大きな劇場でまた一緒にやりたいね」と話していたメンバーです。そのときの約束を思い出して連絡したところ、ふたりとも参加してくれることになりました。10年前は劇場の仕込みも当然自分たちでやっていましたから、大道具のドアも重厚感がなくてバインバイン波打っちゃっていましたし、1日に2公演の日も多かったので、みんな疲れていて、井口さんもたまにせりふを噛んでいたくらいです(笑)。そんなふうに夢中で演劇をやっていた学生時代からのメンバーが、時を経てまた集まれるのは、すごいことだとあらためて感じています。

――『キャッシュ・オン・デリバリー』 明石スタジオでの公演では小貫さんが主演・エリック役と演出の両方を担われていました。

じつは、僕、もともと俳優になりたかったのですが、この世界で演者として生活していくことの厳しさも知り、一度、一般の企業に就職をしているんです。でも、サラリーマンにはどうにも向いておらず、どうしてもまた演劇に関わる仕事をしたくて、日芸の学生時代に教わっていた山田和也さんが所属している東宝演劇部の門を叩きました。何度か会社に連絡をさせていただくなかで、たまたま人事の方とお話しできる機会があり、それをきっかけに山田さん演出のミュージカル『レベッカ』の稽古に付く機会をいただき、そこから今に至るという感じです。
 

 出演者の魅力を最大限に引き出したい 

 

2025/9/16(火) 『キャッシュ・オン・デリバリー』制作発表より
左から小貫流星、脇知弘、妃海風、山崎紘菜、井口理、矢本悠馬、小松和重、まりあ、明星真由美

 

――『キャッシュ・オン・デリバリー』はこれまでもさまざまなカンパニーが上演しています。今回の小貫さん演出版の“肝”はどこになりそうですか?

演出家の個性や手法がガツンと前に出るタイプの戯曲ではないので、コメディとしてのおもしろさやテンポ感を大切にしながら、出演者の皆さんの魅力を最大限に引き出せるような演出ができればと思っています。大きな作品の演出助手や演出部の仕事を担うなかでいろいろ勉強もさせていただきましたので、その経験もこの作品で生かせればと考えています。

――この作品は嘘が重なり、登場人物たちが嘘に翻弄されることで物語がうねっていくのがおもしろいですよね。

本当にそうで、キャラクターは皆、とにかく一所懸命なんです。確かにこの作品に出てくる人たちはさまざまな嘘をつくのですが、その嘘は誰かを陥れたり意識的に傷つけるようなものではなくて、大切な人を守るために必要な嘘。エリックを含め、それぞれが自分にとっての正義を守ろうと嘘をつきその嘘に翻弄されますが、僕は彼らのそういう必死さをとても愛おしいと感じます。
 

 

――キャスティングについては小貫さんの想いも反映されているのでしょうか。

主演にあたるエリック役・井口さんについては、ふたたび一緒に『キャッシュ・オン・デリバリー』をやるにあたり、前回彼が演じたノーマンではなく、エリックで出演して欲しいと思いました。ほかのキャストの皆さんは、『千と千尋の神隠し』の妃海風さん、『VOICARION XIX ~スプーンの盾~』の高木渉さん以外は初めてご一緒させていただきますが、プロデューサーとお話して、ノーマン役の矢本悠馬さんをはじめ、ぜひこの役はこの方に演じてほしいと願った俳優さんにオファーさせていただきました。僕、個人的にノーマンというキャラクターが大好きなんですよ。こんなにも周囲の人に愛される人物ってあまりいないと思っています。

 

――ご自身のことをどういうタイプの演出家だと思われますか?

威圧的な対応はしないと思いますし(笑)、特に今回の作品については、なるべく皆で作っていきたいと考えています。『キャッシュ・オン・デリバリー』は英国生まれの翻訳劇(マイケル・クーニー作)ですので、なにか疑問に感じたことがあれば全員でシェアし、解決しながら稽古を進めていきたいですし、僕もきっと出演者の皆さんに教えられたり助けていただくこともあると思います。なんといっても、喜劇、コメディですから、楽しい稽古場にしていきたいですね。

 

――学生時代からこれまで、多くの作品に関わっていらっしゃいますが、小貫さんが特に大きな影響を受けた演劇やミュージカル作品があれば教えてください。

僕はやっぱり海外戯曲の喜劇、コメディが好きなんです。たとえば山田和也さんが演出したレイ・クーニーの『イット・ランズ・イン・ザ・ファミリー』を観劇した際に客席で爆笑して、いつかこういう作品を自分でも演出してみたいと強く思いました。生(なま)で観る演劇の力、人を笑わせるパワーを実感したんですよね。そのパワーをより強く感じる海外発のコメディ作品に惹かれます。

 

――最後に、井口理さんはじめ、10年越しの仲間と当時と同じ作品を上演なさることへの想いを語っていただけますか。

信じられないくらい、いろいろな幸運が重なって、今回、また『キャッシュ・オン・デリバリー』を大きな劇場で上演することが叶いました。この作品はお客さまをいかに笑わせ、いかに楽しませるかという点に重きを置いて書かれているコメディですので、翻訳劇ということで難しくお考えにならずに、気楽に遊びに来るモードで劇場にお運びいただければうれしいです。めちゃくちゃ楽しい舞台にします!


 

キャッシュ オン デリバリー
By Michael Cooney

2025年12月5日(金)〜12月21日(日)
お問合せ:0570-00-7777(ナビダイヤル)東宝テレザーブ

公演詳細はこちら

 

取材・文 上村由紀子(演劇ライター)
写真 宮川舞子
 

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